『アクロイド殺し』 アガサ・クリスティー

ネタバレ注意。推理小説、かつ知ってしまうと楽しめない。

この系の小説の中で、古典的かつ有名なので読んだことは無いけど状況は知っている、という人は多いかも知れない。
そして、読んでいるうちに何か、そういう雰囲気を醸し出すので*1、最初から登場している医師自身が犯人だろう、という部分は分かる人も多いかも知れない。

しかし、この小説で一番びっくりするのは犯人の正体ではなく、この小説自身の正体ですね。
この小説、アガサクリスティから提供されているポアロが登場する小説、ではなく、勿論アガサクリスティが書いたものには違いが無いのですが、この小説*2自身が医師が書いた、という想定*3になっているのですね。

つまり、ここで登場するポアロは、医師が観察し、記載した文体で登場するポアロなんですな。
それなので、最期に医師が表明するのですけど、実際に起きた描写の中で巧妙に隠されたものがある。四章の最後の方なんてかなり変だし、ラルフ・ペイトンなんて、この手法で最後の方まで、まったく登場しない。

ヒントとしては、ポアロに二十三章で情報をまとめたものを提供する場面も、この医師が小説に記載したので、分かる人もいるでしょうけど、結局は最後の唐突なラストで、そういうことか、と分かる*4

信頼できない語り手、という手法、概念があります。
映画などのナレーションや、物語の紹介者、記載自身が、全面的な信頼を寄せていると、実はミスリードされる、という事で、良く知られた手法ではあるのですが、この作品が発表された頃はそれが一般的に認知されていたのかどうか。

その効果を大きく使用した作品ですので、発表時には肯定も反発もされたのではないか、と思っています。

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*1:特にポアロに、提出した内容に記載がありませんでしたが、と言われて、ラルフ・ペイトンを見つけ出されるあたり。...かなり濃厚となる。

*2:実は医師の手記が本になっている、という形式。

*3:一部、医師が知れるかなあ、と思われる内容もなくはないが、粗が目立つほどではない。

*4:書き手が亡くなってしまうので、それ以降は記載がない。