ワクチンに誘導される免疫機構(IgA/IgG)

ワクチンはウィルス情報を元に、人体にウィルスが感染した状態と類似の免疫機構を備えさせることを目的としています。

実際に感染症に罹患しても、免疫機構にウィルスに対する免疫機構が記憶され、次に同じウィルスに感染した時にはその記憶から免疫機構が稼働し、即時にウィルスを退治しようとする体内機構が働きます。

ただし、その場合には最初の感染の時にウィルスが体中に感染、増殖する事を防ぐ事は出来ず、ウィルスの害自体をもろに受けてしまうため、多くの人が死んだり、障害を受けたり、子供に影響が出たり、という多大な悪影響が発生してしまいます*1

そうならないために、ワクチンではウィルスの害を排除した上でウィルス自身の情報は残し、それを体中に入れる事で感染したのと同様な免疫の働きを起こさせ、本物のウィルスに出会ってしまった時に、身体の免疫機構を稼働させ、感染症に対処できるようにします。

この時に誘導される体中物質に免疫グロブリンというものがあります。免疫グロブリンは IgG、IgA、IgM、IgD、IgE の五種類があります。

免疫グロブリンについて 一般社団法人日本血液製剤協会

免疫の中で大きな役割を担っているのが免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)で、血液中や組織液中に存在しています。
免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があり、それぞれの分子量、その働く場所・時期にも違いがあります。

http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/globulin/glo_03.html

ワクチンではウィルスへの免疫を備えるために、上記の免疫グロブリンを誘導する機能を備えている訳ですが、注射型のワクチンでは残念ながら IgG を誘導する機能しか備える事ができません。

現在のワクチンでは、それでもかなり有効に感染症の害を抑え込めている訳ですが、IgG の機能の関係上、ウィルスの感染自体は実は抑えておらず、感染した後のウィルスの増殖を抑え込み、人への悪影響を阻止している、という方式で感染症へ備えています。つまり感染はするが、その直後に免疫機構がすぐさま反応しウィルスの増殖を阻止するので、結果としては感染していないのとほぼ同等の効果を生んでいる、という事になります。

この事はワクチン新規開発の課題ともなっており、この事から粘液膜で働く IgA を誘導できるワクチンが開発中となっています。現在、製品が開発され臨床研究中になっているものとしては経鼻ワクチンがあります。

経鼻ワクチンでは粘膜での IgA を誘導し、感染自体も防御することを目的としているようです。まだまだ製品化、臨床試験の過程がありますので、すぐに製品が用意できるわけではありません*2が、近い将来に変化があるかも知れません。

参考資料リンク

インフルエンザの次世代経鼻ワクチンを開発中 | 特集記事 | NatureJapanJobs | Nature Research
「次世代ワクチンとしての経鼻インフルエンザワクチン」 長谷川秀樹 国立感染症研究所 感染病理部 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会 平成26年5月23日

*1:局所的な集団で時々喧伝される自然感染での免疫獲得は、この点をまったく無視した暴論です。

*2:他国では承認製品が存在する場合もある。